ADOBE DESIGN JIMOTO in 福岡 とうイベントにおいて、ビジュアル部門として参加し、地域の問題である「わかりやすいバス停のデザイン(を行う)」という課題に対して、日頃学んでいる人間中心デザインのプロセスを実践することに挑戦した。(実際のプロセスは前々回前回の記事を参照)

 

目的

このイベントに参加する目的が2つあった。

1つは観察から得た客観的データからデザインを考えるということ。そもそも公共デザインなどを専門で取り組んでいる会社であれば、今回やったような調査は当たり前のように行っているのかもしれない。個人的な話をすれば、実はこの領域に専門家として関わったことがない。あくまで広告やデザインポリシーの延長として、ほとんどは既に課題が提示されていたことが多かった。自ら行動観察などの質的調査をしてデザイン・制作に繋げていくところまでやったことはない。

そこで、観察をすることで利用者の本質的なニーズを発見し、それに対応する解答としてのビジュアルコミュニケーションを設計することに挑戦することを目的とした。小柳さんとパートナーを組むことになったのは好都合で、ともに人間中心のデザインプロセスを学んでいるので、このプロセスを実践することがお互いのベネフィットになるからだ。

もうひとつの目的は、生産デザインと伝達デザインの間を埋める切っ掛けを見つけるということだ。これま印刷物からインタラクティブシステムそしてサービスのデザインとデザインする対象が変わってきた。その過程で情報デザインや人間中心デザイン(Design Thinkingも)、UIに関する書籍からデザインのヒントを得ようとしてきたが、どの文献も情報を整理したところで情報が急速に少なくなる。そのあとのビジュアルコミュニケーションに繋げていく間の情報がほとんど無い。

これがグラフィックデザイナーと生産デザインや空間デザインとの溝を生み、共創のしにくさやビジュアルコミュニケーションデザインを軽んじる傾向を生んでいるのではないかと思っている(もちろん、先人達の中には理解して自ら埋めて取り組んでいる方達もいる)。そもそも人間中心デザインやUIに関する考えは生産デザインの領域から発生している。情報デザインは間にある雰囲気があるが、実はビジュアルデザインと完全には繋がっておらず、まだ隔たりがあると思っている。この間をなんとか埋めたいと模索を続けているのだが、今回の挑戦にヒントを見つけられればいいな思う。

 

取り組む前に考えていたこと

イベントの性質上、当日まではほとんど情報が無く、わかっていたのは「ビジュアルを作らなくてはいけないこと」と「地元の問題を解決する」ということだけだった。そこで予想したのが「福岡市の観光資源に関する問題」か、「外国人観光客の増加にともなう問題」じゃないかと予想していた。前者になればインタビュー、後者ならば行動調査で、制作プロセスも、プロトタイピングを3回くらいできないかなと安易に考えていた。(が、想像よりも時間が短いことを思い知ることになった)

 

実際にやってどうだったか

テーマについて、これまでUX FUKUOKAでは主催側だったため、ワークショップ実践は研究会でしか行っていなかった。どちらにしても学びのための架空テーマなので、リアリティがなかった。しかし今回は、リアルに考えることができるテーマだったため、調査もかなり面白かった。

時間については、気がつけば2時間があっという間に過ぎてしまい、後半の思考と制作をかなり圧迫してしまった。時間配分がうまく管理できていなかった。そのせいでプロトタイピングができなかった。つまりテストをしていない作りっぱなしの状態ということだ。プレゼンテーションにも影響があって、2分の中でどう構成して話すかという準備を怠ってしまった。

ビジュアルについて、成果物に魅力という部分がかなり欠けていて、見た目にも地味な印象となってしまった。これは日頃のアイデアストックがものを言うところかもしれない。しかしなんとなく見栄えの良いビジュアルを作るのは簡単だが、できればデザイナーの表現は一切排除し人間中心な思考でビジュアルを生み出したい。ここはもっとエモーショナル・デザインの視点でのトレーニングが必要だと思った。

ところで、今回の課題は「外国人でもわかるバス停」だったが、映像部門の人たちはやりにくかったのではないだろうか。それならば「バス停」をデザインさせるという課題を提供するのではなく、「外国人はバス停をわかりにくいと思っている」という事実に対して、「問いをたて、課題を設定し解決しなさい」というテーマを与えれば、よかったのではないかと思った。そうすればその事実を知らせるTVCMやサイネージで流す映像など様々な展開を考えることが可能になるからだ。

 

発見・気付き

制限時間が4時間だった場合、そもそもこういったプロセスをやろうというのは無謀かもしれないが、やってみるとこれだけ短い時間でも簡単な調査はできるし、データもあまりとれないが客観的に考えることができるし、ベースのアイデアは生み出しやすいことがわかった。ペアで取り組むというのも思考が分散されすぎなかったので良かった。この経験は今後のUX FUKUOKAの研究会やセミナーのテーマづくりの参考になると思う。この4時間くらいのコンパクトな時間枠を1セットとして、これを何度も繰り返すというやり方をすれば実際に使えるプロセスになるかもしれないと思った。デザインスプリントはこういう感じなのかな。

「地域の問題を解決する」というリアルなテーマは、架空のワークショップとは情報の量が桁違いだった気がする。調査後すぐにデータを書き出したので良かったが、長時間の調査だったら記録しきれなかったかもしれない。もっと行動調査の練習をして最適な装備を見つけたいと思った。

それから参加者だとブログが書きやすい。

 

次にとりくむこと

今回の短時間で強制的にひととおりやるプロセスでリアルなテーマに取り組むのは、ぜひUXF研究会に取り入れたいと思った。今回の「バス停のデザイン」はかなり中途半端な感じがするので、可能であれば引き続きやってみたいと思う。

また、機会があれば当日参加した学生たちと、制作のプロセスを共有したいと思う。

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